相続人・相続財産調査

相続手続きを円滑に進めるためには、戸籍等を収集し読み解くことで相続人を特定する『相続人調査』、預貯金・不動産・有価証券などの遺産状況を明確にする『相続財産調査』、が不可欠です。

相続人調査

相続人調査とは、亡くなった人(被相続人)の財産を相続する権利を持つ人(相続人)が誰であるかを特定するための調査のことを指します。

相続人調査の必要性

故人名義の銀行口座解約払戻や不動産の相続登記を行うにあたり、遺言書が無い場合には、法定相続人が法定相続割合に応じた持分で各財産を相続するか、もしくは、法定相続人全員で遺産分割協議を行い各財産を任意の割合で相続するか、を決める必要があります。

そして、上記で決まった方法で手続きを進めていくわけですが、その際に法定相続人が誰であるか、を『対外的に(金融機関や法務局等に)』証明しなくてはならず、そのために相続人・相続財産調査が必要になります。

わざわざ戸籍を集めなくても家族関係は把握している、と安易に考え相続人調査を怠ってしまうと、後から思いもよらぬ相続人の存在が発覚するようなこともあります。
その場合遺産分割協議のやり直しをしなければならなくなるなど色々と面倒なことになってしまうので、しっかりと戸籍を集めて相続人を確定させることが大切です。

相続人調査の流れ

基本的な相続人調査の流れは以下になります。

①故人(被相続人)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等を取得する。
②取得した戸籍の情報を元に、戸籍に記載されている関係者の戸籍等を取得し、相続人が誰であるのか確認していく。
③全ての相続人が確認出来たら、取得した情報をもとに相続関係説明図を作成する。

戸籍を収集する

戸籍の種類

戸籍は、故人が生まれてから死ぬまでを記録した公的な証明書になります。
ただ、実は相続人調査に必要な戸籍はいくつかの種類があり、それらを事前に把握しておく必要があります。

戸籍謄本

戸籍謄本とは、戸籍原本に記載されている内容すべてを写したもののことを指します。
つまり、故人だけでなくその戸籍に入っている全員の名前や生年月日、身分関係等が記載されています。

戸籍謄本に似たものとして戸籍抄本がありますが、これは戸籍原本のうち特定の人の情報だけを切り取ったものであるため、相続人調査を行うためには戸籍謄本を請求するのが一般的です。

除籍謄本

除籍謄本とは、死亡や婚姻と言った事情により、その戸籍に入っていた人すべてがその戸籍からいなくなりカラになってしまった戸籍の写しのことを指します。
つまり、その戸籍に属する人が一人でも存続していれば、除籍謄本にはならないということです。

ちなみに、相続に関する手続きで除籍謄本を求められることがありますが、ここでいう除籍謄本は意味が若干違う場合があります。
故人である被相続人が除籍(=死亡)したことを証明出来る謄本を求めているケースが多いのですが、全員がいなくなった除籍謄本が必要な場合もあれば、故人以外の誰かが存続している戸籍謄本が必要な場合もあるため注意が必要です。

改正原戸籍

改正原戸籍(かいせいはらこせき)とは、戸籍法が改正され新様式の戸籍に作り直された際の、法改正前の状態の戸籍のことを指します。

ただ、この法改正前に除籍(死亡や転籍等)されている内容は新様式の戸籍には反映されないので、故人の離婚歴などが隠れており相続人である子の存在を見落としてしまう可能性などがあるため、改正原戸籍の内容もしっかりと確認する必要があります。

相続人調査に必要な戸籍の範囲

では、相続人を確認するためにどのような戸籍を取得していけばよいのか確認します。

被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を取得する

まずは被相続人の最新の戸籍を死亡時の本籍地の役所で取得します。
しかし、多くの場合結婚や離婚その他の理由で本籍地が変わることがあり、上記で取得した最新の戸籍だけで被相続人の出生から死亡までが網羅されていることは少ないです。
被相続人の人生のどの段階で相続人が発生しているかは、すべての戸籍を確認しないと分からないので、最新の戸籍の前に別の戸籍が存在するならばその戸籍も取得、その前の戸籍も取得、というように出生から死亡までの全ての戸籍を取得し内容を読み解いていく必要があります。

※2024年3月1日から、被相続人の死亡時の本籍地以外の役所でも、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍をまとめて取得出来るようになりました(広域交付制度)。
ただし、この制度を利用出来るのは、本人、配偶者、父母や祖父母などの直系尊属、子や孫などの直系卑属に限られており、兄弟姉妹、またはおじやおばなどの戸籍謄本を請求することはで出来ません。また、郵送や第三者による請求が行えない点にも注意が必要です。

被相続人に子供がいた場合

被相続人に子がいた場合には、法定相続人は子のみ、もしくは子と被相続人の配偶者になるのですが、その際に相続人である子の現在の戸籍謄本を確認する必要があります。
現在の戸籍で被相続人との身分関係と生存が確認出来る場合、配偶者と子の現在の戸籍謄本があれば問題ないのですが、もし、この相続人である子が、被相続人よりも前に死亡していた場合には、その子の子、つまり被相続人の孫へ相続されることになります(代襲相続)。
その場合、さらに死亡した子についても出生から死亡までの全ての戸籍を取得し、子に関する相続人についても調査する必要があります。

被相続人に子供がいなかった場合

被相続人に子がいない場合には、配偶者のみ、もしくは配偶者と被相続人の父母もしくは祖父母といった直系尊属が相続人となります。
この場合も各相続人の現在戸籍を取得し内容を確認します。
この際に、相続人が既に死亡している場合にはその事実を確認出来る戸籍謄本も必要となります。

そして、被相続人の直系尊属が既に全員死亡している場合は、被相続人の兄弟姉妹に相続権が発生します。
この場合は、被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍と、祖父母について死亡の記載のある除籍謄本、兄弟姉妹全員の現在戸籍を確認することになります。
そして、相続人となる兄弟姉妹の戸籍については現在の戸籍のみで問題ありませんが、相続開始前に既に亡くなっている兄弟姉妹がいる場合には、その兄弟姉妹の子(被相続人の甥姪)が代襲相続人になるため、相続開始前に亡くなっている兄弟姉妹に関しては出生から死亡までの戸籍も必要になります。

戸籍の記載内容を確認する

戸籍謄本の内容は本籍地や身分関係に関するものですが、見慣れていないと必要な情報を判別しにくいかもしれません。
そこで、まずはその戸籍がいつ作られていつまで有効な内容だったのかを確認します。
さらに、被相続人の婚姻歴や養子縁組、認知等の記載がないかなど、注意深く確認していきます。

戸籍が古く判読が困難な場合

現在の戸籍謄本はデジタル化が導入され非常に見やすくなっていますが、デジタル化が導入されたのは平成6年で比較的最近です。
デジタル化前の戸籍はすべて役所で手書きされており、様式も現在とは少し異なり縦書きとなっています。また、除籍等についても線で消すといった方法を取っているので、非常に読みづらく判別が困難なものも多数あります。
しかし、そこに新たな相続人情報が隠れている可能性もあるので、どうしても判読が難しい場合には管轄する役所の戸籍係に電話をして直接記載内容を聞いてみるといいでしょう。

住所不明の相続人がいる場合

相続人調査をしている仮定で全く知らない相続人が現れることがあります。
このような場合には、その相続人の戸籍を取り寄せる際に戸籍の附票も取り寄せるようにします。
戸籍の附票には戸籍に載っている人の住民票の変遷が記載されているので、現在の住民票地に手紙を送りコンタクトを図ることが出来ます。

相続関係説明図を作成し相続人調査終了

被相続人の出生から死亡までの戸籍、そして相続人に関する戸籍についての取得が完了したら、その情報を元に相続関係説明図を作成します。
これは各人の名前や続柄、住所、生年月日等を記載した図で、被相続人から見た関係性が分かりやすくなるので、遺産分割協議や財産取得の度に戸籍を見直す必要が無くなりスムーズに手続きを進めることが出来るようになります。

相続関係説明図が完成したら相続人調査は終了となります。

相続財産調査

相続財産調査とは、亡くなった人(被相続人)のプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めてすべての遺産の有無を調べ、それらの財産を適正に評価・査定することを指します。

相続財産調査の必要性

相続が開始すると、相続人はすべての財産を相続するか(単純承認)、すべての財産を放棄するか(相続放棄)、プラス財産の範囲内でマイナス財産も相続するか(限定承認)のいずれかの方法を選択することになります。

その際に、正確な相続財産調査を行わないと相続財産の内容が把握出来ず、正しい選択をすることも手続きを進めることも出来ません。

遺言書がなく、複数の相続人で財産を受け継ぐ場合は、一般的に相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議をする際も、協議後に新たな財産が判明したり、あるはずの財産が存在しないことが発覚したりするなど、正確な財産を前提とせずに協議が行われた場合は、相続人間でトラブルに発展する可能性が高くなります。

遺産分割の対象は、預貯金や不動産、有価証券などのプラスの財産であるとされており、マイナスの財産である負債に関しては相続放棄などをしない限り、原則として相続分に応じて分割されます。
よって、相続放棄手続きをしなければ、知らぬ間に借金を負ってしまう可能性もあるので注意が必要です。

さらに、相続税の申告をする際にも、申告書に記載しなかった財産が後から発覚すると、申告漏れとみなされナルティを受けることもあり得ます。

相続財産調査が関係する期限

相続放棄や限定承認を選択する場合には、原則として相続人になったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
このため、スケジュールには余裕をもって早めに相続財産調査を始めた方が良いでしょう。

また、相続税の申告に関しては、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に行わなくてはなりません。
相続税申告が必要か不要かを知るためにも相続財産調査が必要ですので、申告期限に間に合うよう早めに調査に取り掛かる方が良いでしょう。

相続財産調査の流れ

相続財産調査する方法は、財産の種類によって異なります。
代表的な財産の種類を例に一般的なケースで確認します。

預貯金

金融機関を特定する

預貯金の調査に関しては、まず、被相続人がどの金融機関を利用していたかを特定する必要があります。
通帳、キャッシュカード、金融機関からの郵便物などが残っている場合、取引があった可能性が高いので調査対象となります。
ただし、通帳を発行していない口座や、紛失した口座が存在するケースもあるので、取引があった可能性が少しでもある金融機関は調査対象に含め確認していきます。

残高証明書を発行する

金融機関が特定出来たら、窓口か郵送で残高証明書の発行を依頼します。
なお、残高証明書の請求は相続人全員が共同して行う必要はなく、相続人一人でも可能です。

請求の際に、被相続人が亡くなったことが記録された戸籍(除籍)謄本、手続きをする人が相続人であることがわかる戸籍謄本の提出を求められます。
ただし、状況によって必要な書類が異なる可能性があるので、事前に金融機関に問い合わせた方が確実です。

通帳に記帳する

口座の存在が確認出来たら、通帳の記帳も行っておくとが良いでしょう。
被相続人が亡くなるまで取引をしていた相手先を把握出来、財産調査に使える可能性があります。
また、気になる支払記録などがあった場合にも、内容を確認したほうがよいでしょう。

不動産

固定資産税課税明細書を確認する

不動産を所有している場合、通常は固定資産税の納付書が届きます。
納付書には固定資産税課税明細書が同封されているので、被相続人宛に届いた納付書が残っていれば不動産所有状況の調査がスムーズになります。

固定資産評価証明書を取得する

不動産を所有していても、納付すべき税額が発生しない場合は、一般的に納付書などの書類は届きません。
また共有不動産については、基本的には共有者を代表する一人に納付書などの書類が送付されるので、書類が見つからないからといって所有不動産がないとは限りません。

このような場合には、被相続人名義の固定資産評価証明書を取得すると、非課税のものも含めた保有物件を確認することが出来ます。
固定資産評価証明書は不動産の所在する市区町村役場窓口で請求でき、郵送でも取得出来るので、単独所有のもの、共同所有のもの、それぞれ漏れなく取得しましょう。
さらに、複数の自治体に保有不動産がある場合は、各自治体で取得が必要となります。

有価証券

株主名簿を確認する

株式などの有価証券も当然相続財産になります。
また、仮想通貨や保険積立金、ゴルフ会員権なども相続対象となるので注意が必要です。

旧商法では、株式会社は原則として株券を発行する義務を負うと規定されていましたが、2004年の商法改正により、株券は原則不発行とし定款で定めた場合のみ株券を発行出来る、と改められました。
株券には発行した会社名が記載されているので、見つかった場合は、被相続人が株主名簿に記録されているか確認したほうがよいでしょう。

ネット証券を確認する

証券会社からの取引残高報告書などが見つかった場合は照会を行います。
ただし、近年ではネット証券会社を通じて株券の売買を引を行い、書類を電子交付で受け取っているケースも非常に多いため、郵便物が届かないケースもあります。
この場合は、被相続人のパソコンやスマホの利用履歴、ブックマークなどを辿って調査していかなければなりません。

貴金属などのその他財産

自宅の金庫や貸金庫を確認する

貴金属は原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価することとされています。
貴金属は現物が被相続人の金庫や引き出しにしまってる可能性が高いですが、銀行の貸金庫等に入っていることもあり得ます。
そのため、預貯金等の調査において貸金庫の存在が確認された場合は、その中身も調査対象として調べる必要があります。

自動車や美術品も確認を

なお、自動車や美術品などの動産も相続財産になります。
換金価値の高そうなものはリスト化して記録しておき、取り扱い業者に鑑定評価を依頼するなどして価額を調査しましょう。

負債

信用情報機関に開示請求を行う

信用情報機関(個人や企業の信用情報を収集し管理している機関)に信用情報の開示請求を行うと、加盟社における取引情報がわかります。
被相続人の負債が不明確な場合には、個人の信用情報を取り扱う、全国銀行個人信用情報センター、株式会社シー・アイ・シー、株式会社日本信用情報機構に対し、被相続人の信用情報を請求するとよいでしょう。

個人間の貸し借りや保証債務

個人間の契約、金融業ではない法人からの借入などは、信用情報機関に情報が登録されないため、残念ながら確実な調査方法はありません。
被相続人の残した書類などを頼りに、地道に調べるしかないので、相続開始後見つかった書類などはすぐに破棄せずしばらく保管しておきましょう。

それと、保証債務のの有無もしっかり確認しておく必要があります。
被相続人が保証人になっていた場合、保証債務も相続対象になることがあるので、保証債務がありそうな場合には被相続人の人間関係や残された資料を調査したほうがよいでしょう。

財産目録を作成し相続財産調査終了

すべての相続財産を確認出来たら、それらを一覧にした相続財産目録を作成します。
これは必ず作成しなくてはならない書類ではありませんが、遺産の内容を各相続人が把握しやすくなり、遺産分割協議や相続手続をスムーズに進めることが出来るようになるため、作成することをおすすめします。

財産目録を作成したら、相続財産調査は終了となります。

相続人・相続財産調査は【相続・生前対策専門】行政書士香川法務事務所にお任せ下さい

相続人・相続財産調査は相続人本人が行うことも可能ではありますが、作業量が膨大で非常に手間がかかります。
また、役所や銀行等での手続きは基本的に平日しか行えないため、仕事の都合上週末しか休みが取れない方はそもそも手続きを進めること自体難しいでしょう。
かといって後回しにしてしまうと、後々トラブルに発展してしまう可能性も高まっていきます。

相続人・相続人調査でお困りの際には、ぜひお気軽に【相続・生前対策専門】行政書士香川法務事務所にお問い合わせください。