デジタル遺産とは?時代と共に多様化する遺産の形

『デジタル遺産』とは、亡くなった人が生前に利用していたあらゆるデジタル上の資産や情報のことを指します。
具体的には、SNSアカウントの情報、ネット銀行やネット証券の口座情報などがあたります。

デジタル遺産の定義と具体例

インターネットとデジタル技術の急速な発展により、人々の生活は大きく変化しました。
日常的に使うスマートフォン、SNS、クラウドストレージ、暗号資産、ネット銀行口座など、デジタル空間に残る「資産」は年々増加しています。
これらは物理的な形を持たず、従来の遺産とは異なる性質を持ちますが、明確な「価値」を持っていることには変わりなく、近年ではこれらの総称を「デジタル遺産」と定義しています。

デジタル遺産の具体例

デジタル遺産には、以下のようなものが含まれます。

• SNSアカウント(X、Facebook、Instagram など)
SNSアカウントとは、ソーシャルネットワーキングサービスを利用するために作成する個人の登録情報のことをいいます。
具体的には、X、Facebook、Instagram、TikTokなどがあり、ユーザー名、パスワード、プロフィール、連絡先などが登録されています。

• クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox など)に保存されたファイル
クラウドストレージとは、インターネットにデータ(画像、動画、書類など)を保存できるサービスのことをいいます。
具体的には、GoogleDrive、Dropbox、iCloud、OneDriveなどがあります。

• ネット銀行やネット証券の口座情報
ネット銀行の資産は「預金」、ネット証券の資産は「有価証券」なので、従来の「遺産」と同様にとらえても問題ないでしょう。
ただ、どちらも「オンライン上で管理」するという点において、デジタル遺産としての側面も有しています。

• 暗号資産(ビットコイン、イーサリアムなど)
「暗号資産(仮想通貨)」とは、情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続するブロックチェーン技術を用いて保管および取引される資産のことをいいます。
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などが有名で、主に暗号資産交換業者(bitFlyer:ビットフライヤー、Coincheck:コインチェックなど)を通じて取引されています。

• 電子マネー(Suica、PayPay残高など)
交通系電子マネーのSuicaやPASMO、クレジットカード系電子マネーのIDやQUICKPay、QRコード決済のPayPayや楽天Payなどがあります。

• ポイントやマイレージ
クレジットカードを利用すると、利用額に応じてポイントや航空会社のマイレージが加算されるのが一般的ですが、これらもデジタル遺産にあたります。

• デジタルの著作物(画像、動画、音楽、ブログ記事など)
パソコンやスマートフォンなどのデジタル端末を用いて、音楽や画像、動画などの著作物を制作する場合、これらには著作権が認められ、その訴求力などに応じて財産的価値が生じることがあります。
このようなデジタルの著作物(著作権)も、デジタル遺産にあたります。

デジタル遺産の問題点

デジタル遺産は、「誰がどのように相続し管理するのか」が明確にされていないことことが多く、実際に相続手続を行う際に問題が発生することがあります。

アクセス権の問題

故人のアカウントにログインするには、IDやパスワードが必要です。
しかし、これらの情報が家族に伝えられていなかった場合、重要な情報や財産にアクセスできないという事態が起こります。
また、近年はセキュリティ強化により、二段階認証や生体認証を必要とするサービスも増えており、それらが設定されている場合アクセスはさらに困難になります。

プライバシーと法的課題

個人情報保護の観点から、たとえ遺族であっても故人のアカウント情報やデータへのアクセスが制限されるケースがあります。
日本ではまだデジタル遺産に関する明確な法律が整備されておらず、企業ごとの規約に委ねられているのが現状です。

無断放置によるリスク

放置されたSNSアカウントや仮想通貨ウォレットは、悪意ある第三者による不正アクセスや詐欺に利用される可能性があります。

デジタル遺産の管理と対策

自分の死後に備えてデジタル遺産を「見える化」し、適切に管理しておくことが非常に重要です。
具体的には以下のような対策が考えられます。

デジタル遺産リストの作成

利用中のサービスとアカウント情報、パスワードのリストを作成し、信頼できる家族や専門家に保管を依頼しておきます。
ただし、セキュリティ上のリスクがあるため、紙媒体で厳重に管理するか、あるいは民間の「デジタル遺言サービス」などの利用を検討するのも良いでしょう。

遺言の作成

公正証書遺言や自筆証書遺言などの形で、デジタル遺産の取り扱いを明示しておくことも可能です。
「このクラウドにある画像を妻に渡してほしい」「暗号資産は長男に相続させる」といった具体的な指示を残すことで、遺族間のトラブルを未然に防げます。

専門家への相談

弁護士や行政書士などデジタル遺産の取り扱いに詳しい専門家に相談することで、より適切な対応が可能になります。
また近年ではデジタル遺品整理に特化した民間サービスなどもあるので、利用を検討すると良いでしょう。

投稿者プロフィール

香川 貴俊
香川 貴俊行政書士香川法務事務所 代表
行政書士(東京都行政書士会荒川支部理事、荒川区役所区民相談員)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、ビリヤードプロ