おしどり贈与とは?最高2,110万円まで非課税となる節税制度

長年連れ添った夫婦の間で、夫が妻に、または妻が夫に自宅の名義を移したり、住宅取得の資金を贈ったりすることがあります。
通常、このような財産の贈与を行うと贈与税がかかりますが、一定の条件を満たせば税金がかからない特例があります。

それが「贈与税の配偶者控除」、通称「おしどり贈与」です。
婚姻期間20年以上の夫婦が、居住用不動産またはその購入資金を贈与した場合に、最高2,000万円までが非課税となる仕組みです。

こちらの記事では、おしどり贈与に関する一般的な内容を解説します。
実際に制度を利用する際には、税理士などの専門家にお問い合わせください。


制度の概要

贈与税の配偶者控除は、夫婦間の居住用財産の贈与に対して非課税枠を設ける制度です。
具体的には、居住用不動産またはその取得資金の贈与について、最高2,000万円までが非課税となります。
さらに、通常の贈与税の基礎控除110万円も併用できるため、合計2,110万円まで贈与税がかからないことになります。

この非課税枠は「生涯一度きり」しか利用できませんが、贈与税の中でもっとも利用価値が高い制度の一つといえます。

対象となる財産

対象となるのは、以下のいずれかです。

  1. 居住用不動産(すでに取得している自宅の土地・建物)
  2. 居住用不動産の取得資金(新築・購入・リフォーム等のための金銭)

贈与を受けた配偶者が実際に居住することが条件であるため、投資用マンション、別荘、賃貸用物件などは対象外となります。

税制上の効果

この制度を利用して夫婦が共有名義にしておくと、将来その住宅を売却する際に、「居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除」を夫婦それぞれが利用できる可能性があります。
たとえば、持分を夫50%・妻50%とした場合、最大で6,000万円までの譲渡益が非課税になるケースもあります。
おしどり贈与は相続対策だけでなく、将来的な不動産売却時の税金軽減策としても有効です。


適用要件

この特例を利用するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

区分内容
婚姻期間贈与日までに20年以上(戸籍上の婚姻。内縁関係は不可。)
贈与財産居住用不動産またはその取得資金
居住要件贈与を受けた翌年3月15日までに実際に居住し、その後も住み続ける見込みがあること
非課税限度額2,000万円(+基礎控除110万円の併用で最大2,110万円)
適用回数生涯で1回のみ
申告非課税でも贈与税の申告が必要(翌年2月1日~3月15日)

婚姻期間の起算は「婚姻届を提出した日」からカウントされ、事実婚や内縁関係は含まれません。
また、単なる名義変更のみで実際には居住していない場合は適用が認められません。

さらに、非課税枠内の贈与であったとしても、贈与税の申告書を提出しない限り制度は適用されず、申告時には戸籍謄本、登記事項証明書、住民票などを添付する必要があります。


制度のメリット

贈与税の大幅軽減

通常、夫から妻へ2,000万円の不動産を贈与すると、数百万円の贈与税が課されます。
しかしこの制度を利用すれば、2,000万円までは非課税、さらに基礎控除110万円を併用すれば、最大2,110万円まで贈与税ゼロで自宅の名義を移すことができます。

相続税対策として有効

税制改正により、2024年以降は生前贈与の「相続財産への持ち戻し期間」が3年から7年に延長されています。
しかし、おしどり贈与による贈与部分については、この7年加算の対象外です。
つまり、贈与から間もなく相続が発生しても、その2,000万円分は相続税の課税対象に含まれません。
これは、長期的に見ても大きな節税効果を持つ特例です。

残された配偶者が住み続けられる安心感

生前に自宅の名義を配偶者へ移しておくことで、相続発生後も「自分の家」として継続して居住できる安定が得られます。
同じく「自分の家」として継続して居住できる権利として「配偶者居住権」がありますが、こちらは所有権の移転は伴わないのに対して、おしどり贈与は所有権の移転を伴うためより強い権利を確保できる反面できます。


制度のデメリット・注意点

居住していなければ適用されない

実際に居住していない場合や、贈与後すぐに転居した場合は非課税が認められません。
「名義だけ変更して実際に住んでいない」ケースは無効です。

申告を忘れると適用不可

非課税枠内でも、贈与税の申告を行わなければ特例は受けられません。
「税金がかからないから申告不要」という誤解が多いので注意が必要です。

一生に一度しか使えない

この特例は生涯1回限りです。
将来別の住宅を取得した場合などに再利用することはできません。

登記・税金などの実費が発生する

不動産の名義変更には、登録免許税(評価額の2%)や不動産取得税、司法書士報酬などのコストがかかります。
相続で名義変更する場合は登録免許税0.4%、不動産取得税非課税などの優遇があるため、結果として贈与のほうが割高になる場合もあります。

逆相続のリスク

おしどり贈与によって妻が自宅を贈与されたあと、もし妻が夫より先に亡くなった場合、その家は妻の相続財産となり、夫を含む相続人間で分割対象になります。
つまり、いわゆる「逆相続」のような事態が発生する可能性があるので、その点は考慮しておく必要があります。
また、離婚した場合、いったん成立した贈与は原則として取り消すことはできません。

住宅ローン残債がある場合

贈与対象の不動産に住宅ローンが残っている場合、評価方法や課税上の扱いが複雑になります。
ローン残高を差し引いて評価することはできますが、贈与を受けた側がローン返済を引き継ぐような実態があると、課税関係が変わる可能性があります。
贈与前に金融機関や税理士に確認しておくことが重要です。


どんなケースに有効か

おしどり贈与は、次のようなケースで効果を発揮します。

  • 結婚20年以上の夫婦で、自宅が夫単独名義になっている場合
  • 老後の生活安定のために、配偶者に確実な居住権を与えたい場合
  • 相続対策として、早めに財産を整理しておきたい場合
  • 将来的に不動産を売却する可能性があり、譲渡特例の活用を見据えている場合

手続の流れ

  1. 贈与契約書を作成する(不動産の表示・金額・日付・署名押印を明確に)
  2. 法務局で登記名義を変更する(司法書士依頼が一般的)
  3. 翌年2月1日~3月15日に贈与税の申告を行う(非課税でも必須)
  4. 翌年3月15日までに実際に居住し、住民票も移しておく

これらのスケジュールを逆算し、証明書類を早めに準備することが円滑な手続きのコツです。


まとめ

「贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)」は、婚姻20年以上の夫婦に認められた特別な制度です。
2,000万円までの贈与が非課税となり、持ち戻し加算7年の対象外という点で、相続税対策としても非常に有効です。

一方で、登記費用や税務申告、逆相続リスクなど注意点も少なくありません。
また、配偶者居住権との違いや、将来の不動産売却時の課税までを視野に入れて設計することが大切です。

おしどり贈与は「長年連れ添った夫婦の信頼と安心の証」ともいえる制度です。
正しく理解し、専門家と相談しながら活用することで、安心して次の世代へ財産を引き継ぐことができます。

投稿者プロフィール

香川 貴俊
香川 貴俊行政書士香川法務事務所 代表
行政書士(東京都行政書士会荒川支部理事、荒川区役所区民相談員)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、ビリヤードプロ