寄与分とは?公平な遺産分割を行うために
『寄与分』とは、相続人の中に、「長期にわたり被相続人の療養介護を行った」など被相続人(亡くなった人)の財産の維持または増加に特別な貢献をした者がいる場合に、その貢献度を考慮して相続分を増やすことができる制度のことをいいます。
寄与分の概要
『寄与分』は、相続人間の公平を図ることを目的とした制度であり、民法第904条の2に規定されています。
通常、相続は法定相続分に基づいて分割されますが、相続人の中に被相続人の療養看護や事業支援などに特別な労力や資金を提供した者がいる場合、その貢献を考慮せずに法定相続分通りに分けるのは、その者からすれば不公平に感じるでしょう。
このようなケースにおいて、その者の貢献度を考慮し取り分を増やす制度が『寄与分』です。
寄与分が認められるための要件
寄与分が認められるためには、相続人の被相続人に対する貢献が「特別の寄与」でなければなりません。
具体的には、以下のような要件に該当する必要があります。
- 対価を受け取っていないことあるいはそれに近いこと
- 被相続人と相続人の身分関係(夫婦や親)から通常期待される程度を超える行為であること
- 片手間ではなく、その行為に専念していたこと
- 長期間継続していたこと
寄与分が認められる具体例
以下のようなケースは、寄与分として認められる可能性があります。
①長期にわたる無償の介護・療養看護
例:長女が親の介護を10年以上にわたり自宅で行い、そのおかげで施設入所の費用負担を回避することができた。
②事業への労務提供
例:長男が父の経営する事業に無償で長年従事し、事業の発展・維持に貢献した。
③金銭的な援助
例:次男が親の住宅ローンを肩代わりし、財産維持に貢献した。
寄与分を主張するには
寄与分を主張するには、以下のような手順を踏む必要があります。
遺産分割協議の場で寄与分を主張する
まず、他の相続人との遺産分割協議の中で、自分が寄与した事実(例:介護、事業の援助、金銭の提供など)を示して寄与分を認めてもらうよう主張します。
その際には、他の相続人を納得させられるだけの証拠資料(介護記録、医療費の領収書、被相続人の生活費支援の記録など)を用意しておくことが大切です。
遺産分割協議の場において他の相続人が寄与分を認めれば、寄与分を反映した内容の遺産分割協議書を作成し、相続手続を進めます。
家庭裁判所に対して調停の申し立てを行う
遺産分割協議で合意が得られなかった場合、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して調停の申し立てを行います。
なお、寄与分を求める調停には、「遺産分割調停」と「寄与分を定める処分調停」があります。
「遺産分割調停」は寄与分を含めた遺産分割方法全般を決めるための調停、「寄与分を定める処分調停」は寄与分を決めるための調停です。
どちらかを申し立てれば寄与分に関する話し合いができますが、両調停は併せて申し立てることが望ましく、その場合は併合して手続きが行われます。
調停を申し立てると、調停委員会が当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料などを提出させた上で、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をしたりして、合意を目指した話し合いが進められます。
審判に移行する
調停が不成立になった場合には、審判に移行します。
審判手続きでは、裁判官が当事者双方から聞いた事情や提出された資料など一切の事情を考慮して、寄与分を認めるか否か、また認める場合にはどの程度の寄与分を認めるか、の判断を下します。
審判が確定すると、その内容に従って相続人が財産を取得します。
なお、審判に移行する場合は、「遺産分割審判」と「寄与分を定める審判」の両方の申立てが必要なので、どちらか一方の調停しか申し立てていない場合には追加で申し立てる必要があります。
実際に寄与分の主張を検討または希望する場合、弁護士など専門家にお問い合わせください。
寄与分は認められにくい
遺産分割協議が行われる際に、実際に寄与分が考慮され認められるケースはあまり多くありません。
要件の厳しさ
寄与分が認められにくい理由の一つとしては、要件の厳しさがあります。
特に、先述した「被相続人と相続人の身分関係(夫婦や親)から通常期待される程度を超える行為であること」という要件に関しては、主張する側の認識と法律上の要件の厳しさにズレが生じやすいため注意が必要です。
例えば、年老いた親の面倒を見ることは、同居している親子であれば法律上当然とされています。
そのため、「長期に渡り親の食事の世話をしていた」あるいは「病院の送り迎えをしていた」という内容を、「特別の寄与」として主張したとしても、認められない可能性が高いでしょう。
しかし、例えば「通常であれば費用を払ってヘルパーを頼むような状況であったが、家計を支えるためにすべて自分が対応していた」といった場合であれば、「特別の寄与」として認められる可能性が出てきます。

証拠を準備するのが困難
実際に寄与分の主張をしようとした際に、その事実を第三者に納得させられるだけの証拠をそろえることができず、そのために寄与分の主張をあきらめざるを得ないケースもあります。
この点に関しては、日々の記録を残しておいたり、領収書を保管しておいたりするなどの方法が考えられるので、現在すでに家族に対して特別な貢献をしていると感じている人は、将来の寄与分のことを意識して早めに準備をしておくと良いでしょう。
紛争が起きやすい
「認知症の親がいたため実家を離れることができず、長期にわたって介護をしてきた」と長男が主張したところ、「その間お兄さんはタダで実家に住んでいたわけだから、家賃が発生せずむしろ経済的には得をしているのではないか?」と反論されてしまう、このようなことがあり得ます。
寄与分に関しての話し合いは、お互いの立場によって主張に対しての感じ方が変わってしまうため、話し合いがまとまりにくい傾向にあります。
特別寄与料制度
従来、寄与分を主張できるのは、法定相続人に限られていました。
そのため、例えば長男の配偶者といった法定相続人以外の人が実質的に被相続人の介護を行っていた場合、その貢献に関しては何の主張もできないことが問題視されていました。
そこで、2019年7月1日に施行された民法改正によって新たに導入されたのが『特別寄与料制度』です。
特別寄与料制度とは、相続において被相続人(亡くなった人)の親族のうち、法定相続人ではない人が被相続人の療養看護などに特別の寄与をした場合に、その貢献に応じて相続人に対して金銭を請求できるというものです。
主張できる親族の範囲
特別寄与料を主張できる親族は「6親等内の血族、3親等内の姻族」とされています。
つまり、自分のはとこ(祖父の兄弟の孫)や自分の妻の甥や姪まで含まれることになり、かなり広い範囲の親族が特別寄与料を主張できます。
請求期間に制限がある
特別寄与料を請求する場合、家庭裁判所に申し立て、相続人に対して「特別の寄与」に見合ったお金の請求をすることになります。
なお、申し立てができる期間は「特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6か月」および「相続開始の時から1年」以内という短い期間制限になっているため注意が必要です。
投稿者プロフィール

- 行政書士香川法務事務所 代表
- 行政書士(東京都行政書士会荒川支部理事、荒川区役所区民相談員)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、ビリヤードプロ
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