亡くなった人の銀行口座からお金を引き出しても大丈夫?|死亡後の預金引き出しと相続手続きの注意点

家族が亡くなった後、葬儀費用や入院費などの支払いのために、亡くなった方の銀行口座から預金を引き出したいと思う方もいるのではないでしょうか。

銀行が口座名義人の死亡を把握すると口座は原則として凍結されますが、それまでであればATMから預金を引き出せることもあります。

では、亡くなった方の銀行口座から預金を引き出しても問題はないのでしょうか。

死亡後の預金の引き出しにはいくつか注意すべき点があるため、相続手続きを進める前に正しい取り扱いを知っておくことが大切です。

目次
  1. 亡くなった人の銀行口座はすぐに凍結される?
  2. 死亡後の預金を引き出す際に注意すること
  3. 死亡後に預金を引き出すことで生じる主な問題
  4. 口座が凍結された後に預金を引き出す方法
  5. 遺産分割前に預金が必要な場合は「預貯金仮払制度」が利用可能
  6. 他の相続人に無断で預金を引き出されていた場合
  7. 死亡後に預金を引き出す場合の注意点
  8. 亡くなった人の銀行口座に関するよくある質問
  9. 荒川区の相続・遺言は【相続・遺言専門】行政書士香川法務事務所へ

亡くなった人の銀行口座はすぐに凍結される?

口座名義人が亡くなると、すぐに銀行口座が凍結されると思っている方も多いかもしれませんが、実際には死亡しただけで自動的に口座が凍結されるわけではありません。

金融機関には、口座名義人が亡くなった事実が自動的に通知される仕組みがないため、基本的には相続人などから連絡を受けた時に初めて死亡の事実を把握することになります

そして、死亡の事実を把握した金融機関は、その時点で口座を凍結して預金の引き出しや振込みなどを停止します

このような仕組みであるため、金融機関が死亡を把握するまでは基本的に口座を利用すること自体はできますが、亡くなった方の預貯金は相続人全員に関係する財産となるため、一人の相続人が自由に引き出したり使用したりすると問題になる可能性があります。

死亡後の預金を引き出す際に注意すること

被相続人が亡くなった時点で、銀行口座に残されている預貯金は相続財産となるため、相続人の一人がキャッシュカードや暗証番号を知っていたとしても、自分のお金と同じように自由に引き出して使用できるものではありません。

特に、遺産分割が終わる前に他の相続人へ知らせず預金を引き出して自分のために使用すると、その金額や使途をめぐって相続人間のトラブルにつながる可能性があります。

ただし、死亡後には葬儀費用など、すぐにまとまった支払いが必要になることもあるため、このような費用を亡くなった方の預金から支払いたい場合には、その目的や金額を踏まえて慎重に対応する必要があります。

葬儀費用のために預金を引き出す場合

葬儀費用については、亡くなった方の預金から支払ったからといって、直ちに問題になるわけではありません。

大阪高裁平成14年7月3日決定では、葬儀は社会的儀式として必要性が高く、相当額の支出を伴うことなどを理由として、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、相続を単純承認したものとみなされる「相続財産の処分」には当たらないと判断しています

この裁判例では、葬儀費用だけでなく、被相続人の預金から仏壇や墓石の購入費用を支出したことについても、それらが社会的にみて不相当に高額とはいえないことなどを踏まえ、「相続財産の処分」に当たるとは断定できないと判断されました。

ただし、この裁判例があるからといって、葬儀費用であれば金額にかかわらず自由に預金を引き出してよいわけではなく、葬儀の規模や支出した金額などによって判断が異なる可能性があります。

そのため、亡くなった方の預金を葬儀費用に充てる場合には、他の相続人にも事前に金額や目的を伝え、領収書や請求書などを保管して、何にいくら使用したのか後から確認できるようにしておくことが大切です

入院費や施設利用料などを支払う場合

亡くなる前の入院費施設利用料その他の未払い費用については、葬儀費用と同じように扱えるとは限りません。

特に相続放棄を検討している場合には、亡くなった方の預金から債務を支払う行為が「相続財産の処分」に当たるかどうかが問題となる可能性があるため、「本人のための支払いだから問題ない」と判断して預金を使用することは避けた方がよいでしょう

相続放棄をする可能性があり、死亡後に入院費や施設利用料などの請求を受けた場合には、亡くなった方の預金から支払う前に弁護士へ相談することをおすすめします。

死亡後に預金を引き出すことで生じる主な問題

他の相続人とのトラブルにつながる

相続人の一人が他の相続人に知らせず預金を引き出すと、「何のために引き出したのか」「自分のために使ったのではないか」「ほかにも引き出しているのではないか」などと疑われる原因になります

実際には葬儀費用や被相続人の医療費などに使用していたとしても、領収書などが残されておらず使途を説明できなければ、相続人間で認識が食い違う可能性があります。

そのため、死亡後に預金を引き出す必要がある場合には、他の相続人にも事前に説明するとともに、引き出した金額とその使途を記録しておくことが重要です

相続放棄ができなくなる可能性がある

相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合には、民法第921条により、原則として相続を単純承認したものとみなされる可能性があります

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。(一部省略)

単純承認をすると、被相続人の預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産についても相続することになるため、その後に相続放棄をしようとしても認められない可能性があります

ただし、被相続人の預金を引き出したという事実だけで当然に相続放棄ができなくなるわけではなく、引き出した目的や使用方法などによって判断が異なるため、相続放棄を検討している場合には預金へ手を付ける前に弁護士へ相談することをおすすめします。

相続税の対象から外れるわけではない

被相続人が亡くなった後に銀行口座から預金を引き出しても、その金額が相続税の計算から除外されるわけではありません

相続税の計算では、原則として被相続人が亡くなった時点で所有していた財産を基準とするため、死亡後にATMから預金を引き出したとしても、相続開始時に存在していた預貯金として把握する必要があります。

そのため、相続税の申告が必要な場合には、死亡後の引き出しによって減少した現在の口座残高だけではなく、相続開始日時点の残高を確認することが重要です。

口座が凍結された後に預金を引き出す方法

金融機関で通常の相続手続きを行う

遺言書遺産分割協議によって預貯金を取得する人が決まっている場合には、金融機関所定の相続手続きを行い、預金の払戻しを受けます

必要書類は相続の状況や金融機関によって異なりますが、一般的には、被相続人の死亡や相続関係を確認できる戸籍謄本、相続人の印鑑証明書、遺言書または遺産分割協議書、金融機関所定の相続手続書類などが必要になります。

なお、法定相続情報一覧図を取得している場合には、戸籍謄本一式に代えて利用できる金融機関もあるため、複数の金融機関で相続手続きを行う場合には活用すると便利です。

遺産分割前に預金が必要な場合は「預貯金仮払制度」が利用可能

遺産分割前でも一定額の預貯金を引き出せる

葬儀費用や当面の生活費などが必要であっても、遺産分割協議が成立するまで預貯金を一切引き出せないとなれば、相続人の生活や必要な支払いに支障が生じる可能性があります。

そこで、2019年7月から、遺産分割が成立する前でも一定の範囲で相続人が単独で預貯金の払戻しを受けられる「預貯金仮払制度」が設けられています

この制度を利用すれば、他の相続人全員の同意を得ることなく、金融機関の窓口で一定額まで預貯金の払戻しを受けることができます。

(引用:遺産分割前の 相続預金の 払戻し制度-一般社団法人 全国銀行協会HP)

仮払いできる金額

金融機関から単独で払戻しを受けられる金額は、原則として次の計算式によって求めます。

相続開始時の預貯金額 × 3分の1 × 払戻しを求める相続人の法定相続分

ただし、一つの金融機関から払戻しを受けられる金額には150万円の上限があります

例えば、被相続人がA銀行に600万円の預金を持っており、相続人である長男の法定相続分が2分の1であれば、「600万円×3分の1×2分の1=100万円」となるため、長男はA銀行から単独で100万円まで払戻しを受けることができます。

一方、上記の計算式による金額が200万円となる場合には、150万円の上限が適用されるため、その金融機関から単独で払戻しを受けられるのは150万円までです。

仮払いを受けた預金は遺産分割で精算する

預貯金の仮払い制度によって受け取った金銭は、相続人が本来の相続分とは別に追加で取得できるものではありません。

民法第909条の2では、この制度によって払い戻された預貯金について、その相続人が遺産の一部を取得したものとみなすことが定められているため、最終的な遺産分割では仮払いを受けた金額を含めて各相続人の取得額を決めることになります

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

そのため、仮払い制度を利用した場合には、払戻しを受けた金額を把握しておき、後の遺産分割に反映させる必要があります

150万円を超える預貯金が必要な場合

金融機関の窓口で利用する預貯金の仮払い制度には、一つの金融機関につき150万円という上限があるため、多額の医療費や生活費などが必要な場合には十分でないこともあります。

このような場合には、家庭裁判所へ「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申し立て、預貯金の全部または一部を仮に取得する方法があります

ただし、この手続きを利用するためには、遺産分割の調停または審判が家庭裁判所に係属していることに加え、相続財産に属する債務の支払いや相続人の生活費などのために預貯金を払い戻す必要があり、他の共同相続人の利益を害しないことなどの要件を満たさなければなりません。

金融機関の窓口で直接手続きができる預貯金の仮払い制度とは異なり、家庭裁判所への申立てが必要となるため、利用を検討する場合には弁護士へ相談するとよいでしょう。

他の相続人に無断で預金を引き出されていた場合

まずは引き出された金額と使途を確認する

被相続人の死亡後に他の相続人が預金を引き出していたことが判明した場合には、直ちに使い込みと判断するのではなく、まず取引履歴などから引き出された日時と金額を確認します

そのうえで、引き出した相続人に使途を確認し、葬儀費用や被相続人の未払い医療費などに使用したのか、それとも個人的に取得・使用したのかを整理することが必要です

死亡後に引き出された預金の遺産分割での扱い

遺産分割は、原則として遺産分割を行う時点で残っている財産を分ける手続きであるため、相続人の一人が被相続人の死亡後に預金を引き出していた場合、その預金は既に口座からなくなっており、そのままでは遺産分割の対象になりません。

しかし、それでは預金を先に引き出した相続人だけが多くの財産を取得することになり、他の相続人との間で不公平が生じる可能性があります。

そこで、民法第906条の2では、相続人全員の同意があれば、死亡後に引き出された預金についても、遺産分割の時点で残っているものとみなして、遺産分割の対象に含めることができると定められています

なお、預金を引き出した相続人本人については、この同意を得る必要はありません

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

例えば、相続人の一人が死亡後に200万円を引き出していた場合には、他の相続人が同意することで、その200万円も含めて遺産分割を行うことができます。

話し合いで解決できない場合

引き出した相続人が事実を否定している、使途を説明しない、返還に応じないなど、相続人同士の話し合いで解決できない場合には、不当利得返還請求不法行為に基づく損害賠償請求などが問題となることがあります。

このようなケースでは相続人間に紛争が生じているため、交渉や訴訟などを含めて弁護士へ相談することになります。

死亡後に預金を引き出す場合の注意点

できるだけ他の相続人に確認してから引き出す

葬儀費用などのために預金を引き出す必要がある場合でも、他の相続人がいるのであれば、事前に引き出す目的や金額を伝えておくことが大切です

相続人全員が事情を把握したうえで預金を使用すれば、後になって使い込みを疑われるなどのトラブルを防ぎやすくなります。

領収書や明細を必ず残しておく

死亡後に引き出した預金を葬儀費用や医療費などへ使用した場合には、領収書、請求書、振込明細などを保管し、何のためにいくら使用したのか説明できるようにしておきましょう

現金で支払った場合には使途が分からなくなりやすいため、領収書とともに支払日や支払先などを記録しておくと、その後の遺産分割でも確認しやすくなります。

相続放棄を検討しているなら安易に引き出さない

被相続人に借金がある可能性があるなど、相続放棄を検討している場合には、預貯金の引き出しや使用には特に注意が必要です

相続財産を処分したと判断されれば単純承認が成立し、その後の相続放棄が認められなくなる可能性があるため、相続財産の全体像が分からない段階では安易に預金へ手を付けず、必要に応じて弁護士へ相談しましょう。

死亡日時点の残高を確認しておく

死亡後に預金を引き出した場合には、現在の口座残高だけでなく、被相続人が亡くなった日時点でいくら預金があったのかを確認できるようにしておくことも重要です

金融機関から残高証明書を取得すれば、相続開始日時点の預貯金額を確認できるため、遺産分割や相続税申告が必要な場合の資料として利用できます。

亡くなった人の銀行口座に関するよくある質問

死亡届を提出すると銀行口座はすぐに凍結されますか?

いいえ。

市区町村へ死亡届を提出しただけで、その情報がすべての金融機関へ自動的に通知され、銀行口座が一斉に凍結されるわけではありません。

一般的には、相続人などからの連絡によって金融機関が死亡の事実を把握した時点で口座が凍結されます。

キャッシュカードと暗証番号が分かれば、死亡後もATMを利用できますか?

口座が凍結される前であれば、事実上ATMから預金を引き出すこと自体は可能です。

ただし、被相続人の死亡後は預貯金が相続財産となっているため、ATMを利用できることと自由に預金を取得・使用できることは別の問題です。

他の相続人とのトラブルや相続放棄への影響も考えられるため、安易に引き出すことは避けた方がよいでしょう。

公共料金などの口座振替はどうなりますか?

金融機関が死亡を把握して口座を凍結すると、その口座から行われていた公共料金、クレジットカード代金、家賃などの自動引き落としも原則としてできなくなります。

そのため、被相続人名義の口座から継続して支払われていたものがある場合には、契約内容を確認し、必要に応じて支払方法や契約名義を変更する必要があります。

荒川区の相続・遺言は【相続・遺言専門】行政書士香川法務事務所へ

被相続人が亡くなった後も、金融機関が死亡を把握するまでは銀行口座から預金を引き出すこと自体は可能ですが、死亡した時点で預貯金は相続財産となるため、自由に使用してよいわけではありません。

特に、他の相続人に知らせず預金を引き出した場合には、その金額や使途をめぐって遺産分割の際に問題となることがあるほか、相続放棄を検討している場合には預金の引き出しや使用がその後の手続きに影響する可能性もあります。

一方、遺産分割前に葬儀費用や生活費などが必要な場合には、一定額まで相続人が単独で払戻しを受けられる預貯金の仮払い制度もあるため、状況に応じた方法を選択することが大切です。

行政書士香川法務事務所では、戸籍収集による相続人調査、相続財産の調査、相続関係説明図や遺産分割協議書の作成、預貯金の相続手続きなど、相続に必要な各種手続きを承っており、不動産の相続登記が必要な場合には司法書士、相続税の申告が必要な場合には税理士と連携し、ご相談内容に応じて対応いたします。

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この記事の執筆者

香川 貴俊
香川 貴俊行政書士香川法務事務所 代表
行政書士(東京都行政書士会荒川支部理事、荒川区役所区民相談員)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、ビリヤードプロ