公正証書遺言のデジタル化とは?従来との違いや作成方法、注意点を解説

公正証書遺言は、遺言者が公証人へ遺言内容を伝え、公証人が公正証書として作成する遺言書です。

従来は、遺言者と証人が公証役場へ出向き、紙の公正証書に署名・押印する方法が基本でしたが、2025年(令和7年)10月1日から公正証書の作成手続きがデジタル化され、公正証書遺言についてもウェブ会議を利用して作成できるようになりました。

目次
  1. 公正証書遺言とは
  2. 公正証書遺言のデジタル化とは
  3. デジタル化によって変わったこと
  4. デジタル化後も変わらないこと
  5. ウェブ会議で公正証書遺言を作成するための要件
  6. ウェブ会議に必要な機器
  7. ウェブ会議で公正証書遺言を作成する流れ
  8. 公正証書遺言をウェブ会議で作成するメリット
  9. 公正証書遺言のデジタル化に関するよくある質問
  10. 荒川区で相続・遺言のご相談なら【相続・遺言専門】行政書士香川法務事務所へ

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、遺言者が公証人へ遺言内容を伝え、その内容に基づいて公証人が作成する遺言書です。

原則として2人以上の証人が立ち会い、公証人が遺言内容を読み上げた後、遺言者と証人が内容に間違いがないことを確認して作成します。

自筆証書遺言のように遺言者が全文を自筆する必要はなく、法律の専門家である公証人が関与するため、方式の不備によって遺言書が無効となるリスクを抑えられるほか、原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、相続開始後に家庭裁判所の検認を受ける必要もありません

このような安全性の高さから、不動産や預貯金などの財産が多い場合や、相続人同士の争いを防ぎたい場合、遺言内容を確実に実現したい場合に広く利用されています。

公正証書遺言のデジタル化とは

2025年(令和7年)10月1日から、公正証書の作成に関する一連の手続きがデジタル化されました。

これは、公正証書遺言だけを対象とするものではなく、金銭消費貸借契約や賃貸借契約、任意後見契約など、公証人が作成する公正証書全般に適用される制度です。

公正証書遺言についても、申込みや作成、保存、交付などの手続きにデジタル技術が導入され、公証役場での手続きの進め方に新たな選択肢が加わりました。

(参考:2025年10月1日から公正証書の作成手続がデジタル化され ...-日本公証人連合会HP)


デジタル化によって変わったこと

インターネットによる申込みが可能になった

デジタル化により、公正証書の作成申込みは、インターネットを利用して行えるようになりました

これまでも、公証人との事前相談や遺言案の送付を電話やメールで進めることはできましたが、公正証書の正式な作成申込みについてもオンラインで行えるようになった点が変更点です。

ただし、申請書を通常のメールへ添付して送信するだけで正式な申込みが完了するわけではなく、マイナンバーカードに搭載された電子証明書などを利用して電子署名を行う必要があります

なお、インターネットによる申込みを利用しない場合は、従来どおり書面によって申し込むこともできます。

ウェブ会議による作成を選択できるようになった

遺言者が希望し、公証人が相当と認めた場合には、公証役場へ出向くことなく、ウェブ会議を利用して公正証書遺言を作成できるようになりました

ウェブ会議による作成では、遺言者と証人がパソコンから参加し、公証人が映像と音声を通じて本人確認や意思確認を行った後、公正証書遺言の内容を画面に表示して読み上げ、遺言者と証人は、その内容が正確に記録されていることを確認したうえで、クラウド上の公正証書原本へ電子サインを行います

ただし、遺言者が希望すれば必ず利用できるわけではなく、映像と音声を通じて本人確認や遺言者の真意を十分に確認できることや、必要な機器を操作できることなどを踏まえ、公証人が利用の可否を判断します。

そのため、認知機能の低下が疑われる場合や、画面越しでは遺言者本人の意思を十分に確認できない場合には、公証役場での対面または公証人の出張による作成を求められる可能性があります。

公正証書の原本が電子データで作成・保存される

デジタル化後の公正証書は、原則として電子データで作成され、公証役場側のシステムで保存されます

従来は、紙の原本に遺言者、証人、公証人が署名・押印していましたが、電子データで作成する場合は、遺言者と証人がタッチ入力に対応したディスプレイやペンタブレットへ電子ペンで手書きによる電子サインを行い、公証人が電子サインと電子署名を付します

なお、原本は公証役場側で電子データとして保存されるため、交付を受けた電子データを紛失しても原本まで失われることはありません。

正本や謄本を電子データで受け取れるようになった

公正証書遺言の正本や謄本については、従来どおり紙で受け取る方法に加え、電子データで受け取る方法を選択できるようになりました

主な受取方法は、次のとおりです。

・電子データを出力した紙の書面を受け取る

・クラウドから電子データをダウンロードする

・自分で用意したUSBメモリなどの記録媒体へ電子データを保存して受け取る

電子データで交付された正本や謄本には公証人の電子署名などが付されており、そのデータが公証人によって作成されたものであることを確認できます

ただし、現時点では、相続手続きにおいて電子データに対応していない金融機関や法務局なども多いため、公正証書遺言の正本や謄本は電子データだけでなく紙でも受け取り、大切に保管しておくことをおすすめします


デジタル化後も変わらないこと

公正証書遺言の基本的な仕組みは変わらない

デジタル化は、公正証書を作成する手続きを見直したものであり、公正証書遺言そのものの法的な仕組みを変更するものではありません

デジタル化後も、公証人が遺言者の意思を確認したうえで公正証書遺言を作成すること、公証人による本人確認や意思確認が行われること、証人2人以上の立会いが必要であることなど、公正証書遺言が成立するための基本的な要件は従来どおりです。

公証人手数料が必要

デジタル化後も、公正証書遺言の作成には公証人手数料が必要です

手数料は、遺言によって財産を取得する人ごとに、その人が取得する財産の価額を基準として計算されます。

財産の価額手数料
50万円以下3,000円
50万円超~100万円以下5,000円
100万円超~200万円以下7,000円
200万円超~500万円以下13,000円
500万円超~1,000万円以下20,000円
1,000万円超~3,000万円以下26,000円
3,000万円超~5,000万円以下33,000円
5,000万円超~1億円以下49,000円
1億円超~3億円以下49,000円+超過額5,000万円までごとに15,000円加算
3億円超~10億円以下109,000円+超過額5,000万円までごとに13,000円加算
10億円超291,000円+超過額5,000万円までごとに9,000円加算

なお、遺言する財産の価額が1億円以下の場合は、上記の手数料に加えて遺言加算13,000円が必要です。

(参考:Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?-日本公証人連合会HP)

ウェブ会議で公正証書遺言を作成するための要件

ウェブ会議による公正証書遺言の作成は、希望すれば誰でも利用できるわけではありません。

利用するためには、主に次の要件を満たす必要があります。

(参考:Q7. リモート方式の利用ができるのは、どのような場合ですか?-日本公証人連合会HP)

遺言者から利用の申出があること

まず、遺言者本人がウェブ会議による作成を希望し、公証人へ申し出る必要があります

行政書士などの専門家へ遺言作成の支援を依頼している場合は、専門家を通じて公証役場へ希望を伝えることもできますが、手続きは最終的に遺言者本人の意思に基づいて進められます。

公証人が相当と認めること

ウェブ会議を利用するためには、画面越しでも本人確認や遺言者の真意、遺言能力などを十分に確認できることが前提となり、ウェブ会議を利用する必要性も含めて総合的に検討されたうえで、公証人が利用の可否を判断します

そのため、例えば遺言者がパソコンやスマートフォンの操作に不慣れで円滑な意思疎通が難しい場合や、遺言能力について慎重な確認が必要な場合には、対面での作成を求められる可能性があります。

ウェブ会議に必要な機器

ウェブ会議による公正証書遺言の作成には、次の機器や環境が必要です。

・ウェブ会議へ参加できるパソコン

・安定したインターネット環境

・カメラ

・マイク

・スピーカーまたはイヤホン

・タッチ入力が可能なディスプレイまたはペンタブレット

・電子ペン

・パソコンで利用できるメールアドレス

(参考:Q8. リモート方式の利用に必要な機材を教えてください。-日本公証人連合会HP)

ウェブ会議で公正証書遺言を作成する流れ

ウェブ会議による作成を申し出る

まずは、公証役場へ公正証書遺言をウェブ会議で作成したい旨を申し出ます

公証役場は遺言者の住所地に限らず、原則として全国の公証役場から選ぶことができますが、ウェブ会議による作成に対応しているかを事前に確認しなければなりません。

必要書類を準備する

公正証書遺言の作成に要する書類は、遺言内容や財産の種類などによって異なりますが、一般的には次のような書類が求められます。

・遺言者の印鑑証明書または本人確認書類

・遺言者と相続人との関係が分かる戸籍謄本

・受遺者の住民票など

・不動産の登記事項証明書

・固定資産税評価証明書または納税通知書

・預貯金や有価証券の内容が分かる資料

・証人の本人確認書類

・遺言執行者の住所、氏名、生年月日、職業が分かる資料

遺言内容を公証人と調整する

公証人へ遺言内容と必要書類を提出すると、公証人はその内容を基に公正証書遺言の案文を作成します。

案文が完成したら、遺言者は内容を確認し、自分の意思が正確に反映されているか、財産や相続人などの記載に誤りがないかを確認します。

なお、財産の記載が不明確な場合や、遺留分をはじめ相続手続きに影響する問題がある場合には、公証人から説明を受けたり、修正を提案されたりすることがあります。

公正証書遺言は、作成すること自体が目的ではなく、相続開始後に支障なく手続きを進められる内容になっていることが重要であるため、財産の記載方法や予備的遺言、遺言執行者の指定などについても、案文の段階で十分に検討しておきましょう

作成日時を決める

遺言内容が固まったら、遺言者、証人、公証人の日程を調整し、ウェブ会議を行う日時を決めます

日時が決まったら、使用する機器やメールアドレスを公証役場へ伝えるとともに、当日スムーズに手続きを進められるよう、公証役場の案内に従って接続方法やカメラ、マイク、電子ペンなどの動作を事前に確認しておきましょう。

ウェブ会議へ参加する

作成当日は、公証人から送られた招待メールを使ってウェブ会議へ参加します

公証人は映像と音声を通じて遺言者と証人の本人確認を行うとともに、遺言内容が本人の意思に基づくものか、内容を十分に理解しているかについても確認します。

公証人が遺言内容を読み上げる

本人確認と意思確認が終わると、公証人が公正証書遺言の案文を画面に表示して読み上げます

その際に遺言者と証人は、画面に表示された内容と読み上げられた内容を照らし合わせ、遺言者の希望どおりの内容になっているかを確認します。

もし、内容に誤りが見つかった場合はその場で修正が必要になるため、財産の表示や受取人の氏名などは注意深く確認しましょう。

遺言者と証人が電子サインを行う

内容の確認が終わると、公証人から遺言者と証人へ電子サインを依頼するメールが送信されます。

メールで案内された公正証書のPDFファイルを開き、遺言者と証人が電子ペンで電子サインを行って公証人へ送信すると、その後、公証人が電子サインと電子署名を行い、公正証書遺言の原本が完成します

正本や謄本を受け取る

公正証書遺言の原本が完成すると、遺言者は正本や謄本を受け取ります

受取方法は紙と電子データから選択できますが、手続き先によって電子データへの対応状況は異なるため、相続開始後に金融機関や法務局などで利用することを考えると、紙の正本や謄本も取得しておくと安心です。

公正証書遺言をウェブ会議で作成するメリット

公証役場へ出向く負担を減らせる

ウェブ会議を利用すれば、遺言者が公証役場へ出向かなくても公正証書遺言を作成できます

従来も、病気や高齢などによって公証役場へ出向くことが難しい場合は、公証人に自宅や病院などへ出張してもらうことができましたが、日程調整に加え、出張日当や交通費が必要であったため、歩行が困難な方や介護施設へ入居している方、公証役場から離れた地域に住んでいる方にとって、移動の負担を軽減できることは大きなメリットといえるでしょう。

遠方に住む証人が参加しやすい

公正証書遺言の作成には2人以上の証人が必要ですが、遺言者と証人が離れた地域に住んでいる場合は、全員の日程調整に加え、移動の負担も生じます。

ウェブ会議による参加が認められれば、遠方に住む証人も公証役場へ出向くことなく手続きへ参加できます

もっとも、証人にもパソコンや電子サインに必要な機器を準備してもらう必要があるため、状況によっては対面で行う方がスムーズな場合もあります。

電子データで保管できる

電子データで交付を受ければ、紙の正本や謄本を紛失したり、汚損したりするリスクを抑えられます

さらに、電子データは複製や送信が容易であるため、相続開始後に遺言執行者や専門家へ内容を共有する際にも便利です。

ただし、電子データには個人情報や財産情報が含まれるため、パスワードを設定するなど、保存や管理には十分注意しましょう。

公正証書遺言のデジタル化に関するよくある質問

スマートフォンだけで作成できますか?

スマートフォンだけで公正証書遺言を作成することはできません。

ウェブ会議への参加には対応するパソコンが必要であり、電子サインを行うためのタッチ入力対応ディスプレイまたはペンタブレットと電子ペンも必要です。

電子印鑑や実印は必要ですか?

電子データで公正証書を作成する場合、遺言者と証人は電子ペンを使った電子サインを行うため、公正証書への実印の押印は必要ありません。

ただし、本人確認や事前の手続きで印鑑証明書などの提出を求められることがあるため、必要書類については依頼する公証役場へ確認しておきましょう。

従来どおり紙でも作成できますか?

はい、デジタル化後も従来どおり紙で公正証書遺言を作成できます。

また、公正証書の原本が電子データで作成された場合でも、正本や謄本を紙で受け取ることができるため、パソコン操作に不慣れな方が無理にウェブ会議や電子データを利用する必要はありません。

ウェブ会議で作成すると手数料は安くなりますか?

ウェブ会議を利用したことだけを理由として、公正証書遺言の基本的な作成手数料が安くなるわけではありません。

手数料は、遺言によって各相続人や受遺者が取得する財産の価額などに基づいて計算されます。

ただし、公証人の出張が不要になれば、出張日当や交通費の負担を抑えられる可能性があります。

自筆証書遺言もパソコンで作成できるようになりましたか?

いいえ。

デジタル化したからといって、自筆証書遺言の作成方法まで変更されたわけではなく、現在も財産目録を除き、遺言者が全文、日付、氏名を自筆し、押印する必要があります。

荒川区で相続・遺言のご相談なら【相続・遺言専門】行政書士香川法務事務所へ

公正証書遺言のデジタル化により、一定の要件を満たせば、自宅や施設などからウェブ会議へ参加して公正証書遺言を作成できるようになりました。

しかし、ウェブ会議の利用には公証人の判断が必要であり、パソコンや電子サイン用の機器も準備しなければならないため、全ての方にとって対面より利用しやすいとは限りません。

また、作成方法がデジタル化されても、財産の記載漏れ、遺留分への配慮、予備的遺言、遺言執行者の指定など、遺言内容を十分に検討する重要性は変わりません。

行政書士香川法務事務所では、相続人や相続財産の調査、公正証書遺言の原案作成、必要書類の収集、公証役場との打ち合わせ、証人の手配など、公正証書遺言の作成をサポートしております。

さらに、不動産の相続登記や遺言内容に応じた生前の登記手続きが必要な場合には司法書士、相続税や贈与税の検討が必要な場合には税理士と連携し、ご相談内容に応じたサポートを提供しております。

荒川区で公正証書遺言の作成や遺言のデジタル化、相続手続きについてお悩みの方は、お気軽に行政書士香川法務事務所までご相談ください。

この記事の執筆者

香川 貴俊
香川 貴俊行政書士香川法務事務所 代表
行政書士(東京都行政書士会荒川支部理事、荒川区役所区民相談員)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、ビリヤードプロ